16.気配



       


まっすぐ俺の目を見て夢を語る彼を、彼の目を、俺はとてもまっすぐ見返すことはできな かった。

なにかが狂いはじめている気配がした。
それは気配というにはあまりに濃厚だった。喩えるとゆっくりと流動する無色透明で無味 無臭なもの。しかし彼はそれに気付いていない。
新しい朝の訪れを歌う小鳥のように理想を語る彼は、気付いていないというよりも流動す るなんらかのものに頭までどっぷりと浸かることをよしとしているようだった。

狂う、という表現はあるいは正しくないのかもしれない。狂うというのが予定通りにいか なくなるということならば。
彼は、そして俺は見えざる「予定」に向かって邁進している。
彼は流動する物質に流されることによって。俺は全身に絡み付き背後の暗闇へと消える糸 のような物に引っ張られることによって。
「予定」は俺が生まれた時から決まっているのだ。ひょっとすると、彼が生まれた時から かもしれない。

片方だけになった彼の碧い目は、虚ろとなったもう片方の眼よりも空っぽに見えた。
俺の目をまっすぐに見ているが、俺の奥にある彼女の目からは完全に目をそらしている。

「だが俺は最後までお前を見届けるつもりだ。お前の理想とやらも、お前の行き着く先 も。」

彼らの予定に沿って狂っていく彼を見ることが彼らから与えられたすべきことであり、俺 自身の意思でもあるのだ。

「これから俺はお前のそばを離れる。でも俺はいつでもいつまでもお前のことを見てい る。
 愛してる、ジョン。」


たとえ自分達が彼らにとって規則正しく動く歯車の一つでしかないとしても。


07/04/14//



固有名詞がこれでもかと出てこないので全体的にまわりくどいことこのうえないのですが…!(苦笑)
一応山猫の人と蛇の人です。ニャン蛇です。ニャン蛇なんです。
MPOとMG1の間の話な感じでございます。 ・・・・・・そういうわけで逃げます。